コラム

「既存不適格の緩和措置」について理解しよう(リフォーム向け②)

目次

省エネ法改正・建築基準法改正に関する連載コラムは、今回が最後になります。
最後は、国土交通省が2025年3月に公表した「既存建築物の現況調査ガイドライン」(第2版)を元にお話しさせていただきます。

▶2025年3月 国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン」(第2版)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001847401.pdf

前回まででお話しさせていただいた通り、今回の建築基準法改正はリフォーム分野にも大きな改正の波を与えております。
大規模修繕・模様替等のような大きな工事では、確認申請が必要になりました。
「では、大きな改修工事は請けないようにしよう」
「小さいリフォームだけにすればいい」
このように考えられている事業者様も多いかと思います。
国交省で公開している「木造戸建のリフォームにおける建築確認手続の要否について」では、
「建築確認手続が不要な場合でも、リフォーム後の建築物は建築基準法の規定に適合している必要があります。」となっています。

確認申請が必要な話と建物全体を法適合させなければならない話は、よく整理して理解される必要があります。
本コラムでは、その重要なポイントを解説させていただきます。

▽前回までのコラム記事はこちら
https://zaijubiz.jp/column/
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1.「既存不適格の緩和措置」とは?

まず整理しておきたいのは、前回までのコラムで記載の通り、大規模修繕・模様替の場合は今後、確認申請が必要になります。
これは主要構造部ごとに1種以上について行う過半の修繕・模様替のことを指します。
つまり、「主要構造を半分以上施工するような工事になるようであれば、確認申請をしてください」ということです。ここの判断で、確認申請手続きが必要か否かが分かれます。
ここまでの話は、今後、確認申請が必要か否かの話であって、大規模に当てはまらなければ、従来通りでよいのかと言うと、そうでもないようです。

◎木造戸建のリフォームにおける大原則

・工事を「実施しない箇所」も現行の建築基準法令の規定に適合させる必要があります。
・建築確認手続きが不要な場合でも、建物全体を法適合させる必要があります。

建築基準法改正(4号特例縮小)によって、建築基準法令の規定に適合しなくなった建築物を「既存不適格」物件と言います。
この既存不適格物件は、確認申請の要・不要に関係なくリフォーム工事を行うのであれば、建物全体を法適合させる必要があるという事になります。
何度か読み直さないと理解が追い付かないかもしれませんが、4月に法改正がありましたので基本的には、それ以前に建てられた既存建築物は「既存不適格」といえるでしょう。
そう考えると、今後リフォームを行う際は、全てこの原則を理解して進めなければならないという事を認識しておきましょう。

例えば、お施主様が「屋根だけ直してほしい」と依頼してきたのに、他の部分が法適合してないのであれば、屋根以外の工事もやらなければならないという事になります。

どうでしょうか?丁寧な説明をしておかないと、きっとこう思うのではないでしょうか?

「屋根の工事だけでいいっていうのに、頼んでもいない箇所の工事を勧めてくる悪徳リフォーム会社だ」と。

かなりデリケートな部分かと思います。
また、仮にお施主様が理解してくれたとしても、費用負担が大きくなりすぎるため現実的ではないことが予想されます。
そこで原則は、あくまでも原則で、一部軽減措置を設けましょう。ということで、「既存不適格の緩和措置」という整理になっております。簡単に言うと、「『一定の範囲内の増改築等』なら『そのまま(既存不適格を継続する)』でも良いですよ。」という事になります。
注意していただきたいのは、あくまでも既存不適格物件に対する緩和措置であり、「違法建築物」は想定しておりません。当時の建築基準法令には適合して施工されたもので、その後の法改正によって適合しなくなった。これが「既存不適格」になりますので、違法建築物は根本的に前提条件が異なるのです。そうなってくると、何が何でも緩和措置を適用させたい。こういう話になると思います。
では、緩和措置を適用するためにはどうすればいいのでしょうか?

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2.既存建築物の現況調査

既存不適格の緩和措置を適用するにはどうすればよいか?
これは、端的に言うと「既存不適格だという事を証明すればよい。」という事になります。
もう少し言うと直近の工事の時に、合法的に施工された物件であり、その後もそのまま維持しているという事を証明することになります。
これは、冒頭にお話しした「既存建築物の現況調査ガイドライン」(第2版)に大変わかりやすくまとめられていますので、是非、ご確認ください。
ここでは、この内容の重要なポイントを抜粋してお話しさせていただきます。

では、既存不適格物件であることの証明はどのようにすればよいのでしょうか?
これは、当時合法的に施工されたことの証明をするという事なので、「検査済証」で確認をするということがわかりやすいでしょう。但し、ここでいう検査済証は「直近工事の検査済証」を指します。古い検査済証では意味をなさないので注意しましょう。
その為、まず初めにやることはこの検査済証の有無を確認して、「当時の規定に則っている既存不適格」で、その後も改変等による「適合しない既存不適格」(違法建築)になっていないかを確認することになります。

これを、「既存建築物の現況調査」といいます。
この現況調査を実施することで、既存不適格の緩和措置が適用できるかを判断していくことになりますが、現況調査は2つのフェーズに整理されます。
まずは、1つは直近工事の検査済証の確認などの「書類調査」、もう1つは、その後も改変等されていないかの確認などの「現地調査」です。
また、現況測量は、「工事監理が可能な範囲で建築士が実施する」と整理されており、ここでもまた建築士の責任が課されていることは着目しておきたいことです。

ここまでの内容においては、検査済証があれば現地調査もある程度目視確認で済みそうで、そんなに大変そうでもない感じですよね。確かに検査済証があれば、ガイドラインにあるフローチャートでも「簡易な現地調査」で良いとなっており、問題なさそうです。一方、「検査済証が見当たらない(紛失)」ってことになってきますと、かなり面倒なフローになってきます。
検査済証が見当たらないという事になった場合でも、簡単にあきらめないで頑張りましょう。「検査済証の紛失」や「直近工事のものか不明」でも特定行政庁に対して「処分等概要書」の閲覧請求「台帳記載事項証明書」の発行を受けることで検査済証の交付状況の調査が可能であったりします。
確認できるところは、一通り確認しましょう。
しかし、それでもどうしても確認できない。あるいは、それ以外の方法としては、検査済証を確認しようとするのではなく、「工事した時期を特定して、その時代の法律を確認する。そして、その通り建っているかを確認する」という流れになります。

整理するとこのような確認事項になりますが、これは少々骨が折れます。
① 直近で工事した時期の特定
② その時代の法律の確認
③ 実際の建物がその時代の法に適合している状況にあるかの確認

工事時期の確認においては、ガイドライン内では「工事着手時期が確認できる書類」として以下の項目が上げられています。

工事着手時期が確認できる書類(例)
確認申請書の副本
設計(建設)住宅性能評価申請書
長期優良住宅建築等計画の認定申請書の副本
住宅金融支援機構融資の申請書副本
工事請負契約書
登記事項証明書
固定資産税課税台帳登録事項証明書
固定資産税の課税証明書 など

① に関しては、さすがにどれかしらの書類が確認できると思います。
万が一、これら全部が何も確認できないなんてことがありましたら、「違法建築?」を疑い出しても良いかもしれません。法整備においては、当たり前ですが違法建築に対して緩和措置など設けません。既存不適格物件と違法建築では、前提が全く異なる別物であることを改めてお伝えしておきます。

次に、直近工事の施工時期が確認出来たら、その時代の法律の確認なのですが、これらにおいてはガイドラインに「既存不適格の早見表」というものを付けてくれています。これは大変助かります。時代ごとの法確認しやすくなっていますので、是非、一度ご確認いただくと良いと思います。

ここまでが現況調査における「書類調査」に関するところになりますが、検査済証の有無によって労力も変わってきます。それらを終えた上で、次に「現地調査」を行うことになりますが、ここにおいても、ガイドラインにおいては現地調査時のチェック項目や調査後の報告書作成書式まで、かなり丁寧に記載しておりますので、その通り実施すればまず問題ないかと思います。
また、「一定の範囲内の増改築等」についても整理されていますので、一覧表を見ながら、工事内容が緩和措置に適合する工事なのかも確認できるようになっています。

本コラムでは、ガイドラインに記載の全ての項目をお話ししきれませんので、法改正によってどのようなことが変わったのかの概略が、ご理解いただければ幸いに思います。「今後は、ほとんどの新築建築物は、建物全体を審査するのだから、既存住宅も今後は曖昧にはしませんよ」ということでしょう。

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3.新築も既存も「建物全体確認時代」

今後のリフォーム業界の事業者の選択(方向性)はどうなるか?
リフォーム業界における法改正を整理すると、まずは、「大規模な修繕・模様替」は確認申請が必要になりました。逆にそれに当てはまらない小規模なリフォームは確認申請をする必要が無いことが明確になりました。
ここまでなら、わかりやすい改正内容なのですが、それ以外に以下の大原則が加わります。
このどちらにしても(確認申請が必要か否か問わず)、「リフォームを実施するなら、施工箇所だけではなく、当該建物全体を法適合させなければならない。」という事です。大規模な修繕・模様替であれば、当然これらは審査されることになります。その時に既存不適格の緩和措置を適用するのか否かを明示する必要があります。
では「確認申請が不要なリフォームならバレないじゃないか」という事になると思います。
確かに、実際はそうかもしれませんね。

ここで大事なことは、バレなければ大原則となる法律を破ってもいいのか?また、本当はやらなければいけないことも審査されなければやらなくてもいいのか?ここが問われることになるかと思います。
この考え方は、まさに「4号特例」の時と類似していたりしませんでしょうか?
4号特例も構造審査を省略していた制度という事であり、「構造確認をしなくても良い」という制度ではありませんでした。

この辺の大原則を理解して取り組んでいるかいないかは大きな差となると思います。また、これらに関する認識は全て設計者責任に基づくものであり、設計者は新築であろうと既存であろうと、施工箇所であろうと無かろうと関係なく、対象建物全体の適法性を念頭に置きながら取り組んでいく必要があるという事になります。

先日、ある弁護士事務所の方がこのように言っていました。

例えば、水回りのリフォームだけを依頼されたのでそこだけをリフォームして工事完了とした場合、後日、依頼主から「我が家が法適合していないことを何で教えてくれなかったのか?」と訴訟事例に発展するケースが出てくのではないでしょうか?

リフォームする側からすれば、難癖をつけられたと思うかもしれませんが、法改正の内容からすれば依頼主の言い分が正しいことになります。
また、一方で、このようなケースも考えられるとも話がありました。

水回りのリフォームだけの依頼だったが、既存建築物に対する大原則として、法適合していない箇所の施工も勧めたら、「頼んでもいないところまで施工しようとして悪徳リフォーム会社なんじゃないか」とクレームをつけられた。

いずれも、何ともやりきれないケースですが、確かに想定される事案だと個人的には納得してしまいました。では、どうしたらいいのか?
このようなことになってしまう最大の原因は、消費者側が法改正の内容を理解できていないという知識の差が生み出すものであるという事は明らかかと思います。施工する側とされる側では、法制度に対する理解のレベルが全く異なりますので、まずは、打合せの段階で現在の法律ではどのようになっているのかを、丁寧に事前説明をすることが最も大事なことでしょう。
この部分を疎かにしてしまうと、後にすれ違いを生み、様々トラブルを誘発してしまう恐れがありますので、充分注意していただければと思います。

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4.まとめ

リフォーム分野における法改正について2週にわたり、お話しさせていただきましたがいかがでしたでしょうか?
確認申請とは縁が遠かったリフォーム分野に、急に大変多くの業務が負荷されることになります。業務量が増えるという事は見積金額にも反映されてくることにもなるかもしれません。また既存不適格の法適合の視点からは、お施主様の負担も増えるかもしれません。それ以前に、相談を受けた段階で、まずは法改正の内容を丁寧に説明しなければなりません。
リフォームは、段取りよく数をこなしていくから事業が成り立っていると私は理解しておりますが、これでは1現場当たりのローテーションがスローダウンしてしまうのではないかと懸念しております。特に大規模な修繕・模様替は、やり慣れてない事業者にとってはかなりハードルが高いと思います。
そのため、リフォーム事業者の中では、「大規模な修繕・模様替」のような構造体に影響を及ぼす工事は請けない事業者も増えてくるのではないかと考えます。それは、得意な事業者にとっては追い風ともいえることでしょうが、2極化の始まりの予兆を感じます。

また、大規模な修繕・模様替により高額の費用が掛かるようなら、どちらにしても確認申請で手間がかかるので、建て替えを勧める事業者も多くなってくるかもしれません。建物の仕様がわからない既存住宅に労力をかけるぐらいなら、建て替えて新築にしてしまった方がスムーズという考え方もあります。(もちろん予算があればの話ですが)新築となれば、省エネ性能も時代に見合った高性能な仕様になるし、耐震性能も現在の高いレベルのものとなります。
もしかしたら、2050年カーボンニュートラルの実現を考えると「ストック住宅も含めてCO²排出量を全体のゼロ」の目標を達成するためには、既存住宅のレベル向上が必須なため、リフォーム事業の難易度を上げて、暗に建て替えを奨励して新築比率を高めていくという思惑もあるのではないかと、今回の法改正について考えさせられてしまいますが、これは、あくまでも私見に過ぎませんので、皆さんはどうとらえるかを考えてみていただければと思います。

2025年4月の法改正に関する連載コラムは、今回で一旦一区切りとさせていただきますが、引き続き気になる話題がありましたら、掲載させていただきますので、よろしくお願いいたします。

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