コラム

地盤の沈下事故は建築士の責任?地盤会社の責任?

ここまでのコラムでは、巨大地震に備えるべく耐震性能や液状化現象についてお話しさせていただきました。住み続けられる住まいづくりをするためには、「建物」と「地盤」は密接な関係性で、設計する上で十分な対策を講じていく必要があります。
今回は地盤対策における責任と、それを怠ったことによる訴訟事例に基づきお話しさせていただきます。
建築前の地盤調査や地盤補強工事は、基本的には住宅会社(工務店)が地盤会社に依頼することが通常かと思いますが、その場合、地盤による沈下事故は地盤会社の責任なのでしょうか?それとも住宅会社の責任か?あるいは住宅設計者(建築士)の責任か?
法的判断ではどうなのかを見ていきましょう。

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1.地盤の設計者責任について

建築士法第20条では「一級建築士、二級建築士又は木造建築士は、設計を行った場合においては、その設計図書に一級建築士、二級建築士又は木造建築士である旨の表示をして記名及び押印をしなければならない」となっており、地盤の設計業務においても建築士の設計責任が基本となっております。しかし、地盤会社が設計の再委託先として設計図書に記名押印をするというのであれば、地盤会社が建築士法上の地盤の設計責任を負うことにもなり得ます。ただ、当社が知る限りですとそれを容認する地盤会社は少ないでしょう。
いや、それ以前に地盤会社に設計図書への押印を求める住宅会社は稀です。
そもそも建築士は業務独占資格(建築士法第3条)とされており、業務の分業が多い住宅設計において設計補助として外注利用はするものの設計の品質を担保する最終責任者とされているため、責任を外部に押し付けるという建築士の方は少ないでしょう。
つまり、建築士は大変広い範囲で大変重い設計者責任を負っていることになります。
近年、建築士の業務量は過大となり、どれだけ法改正があっても必ず建築士の責任の下で成り立っている状況であることを、まずは十分理解することが大事でしょう。
建築士目線では、全てを一人ではできないので「信頼できるパートナー企業」の選定は大変重要な時代になってきていると思います。
では、地盤業務における設計者責任を記載しているものをいくつか見ていきましょう。

◆建築基準法施行令 第38条1項(基礎)
建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。

◆国土交通省告示1113号
基礎の底部から下方2m以内の距離にある地盤に、スウェーデン式サウンディング(※)の荷重が1kN以下で自沈する層が存在する場合、若しくは基礎の底部から下方2mを超え5m以内の距離にある地盤に、スウェーデン式サウンディングの荷重が500N以下で自沈する層が存在する場合にあっては、建築物の自重による沈下、その他の地盤の変形等を考慮して、建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない。
※現在は、「スクリューウエイト貫入試験」の名称。

◆住宅瑕疵担保責任保険設計施工基準(瑕疵担保履行法の保険申し込みを行える住宅条件)
地盤調査結果の考察、又は基礎設計のためのチェックシートによる判定(以下「考察等」という)に基づき地盤補強の要否を判断し、地盤補強が必要である場合は、考察等に基づき地盤補強工法を選定し、建物に有害な沈下等が生じないように地盤補強を施すこととする。

このように建築基準法、告示、住宅瑕疵保険などでは、安全性の十分な検討を住宅設計者求めている内容になり、これらを怠ると民法の規定上、20年間の不法行為責任を負うことになりかねないという事になります。

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2.【沈下訴訟】宇都宮地裁判例3,800万円損害賠償命令

2003年12月25日 判決
裁判所:宇都宮地方裁判所
原 告:宇都宮市内の某協同組合
被 告:同市内の1級建築士
判 決:被告に3,800万円の損害賠償命令

事 象:
宇都宮市内の某協同組合の配送センターの土間コンクリートが最大10cmの沈下したことで床面積1780㎡のS造平屋の建物にひび割れなどの不具合発生。工事費は9,700万円。
これは、1995年12月に竣工してから1996年7月から9月にかけての事象発生であり、いわゆる竣工直後の「即時沈下」と言える。
争 点:
建築士が軟弱地盤に対応する設計・監理を充分に実施したか否か。

この訴訟事例では、建築士が「建築基準法施行令93条と同法建設省告示111号、日本建築学会の建築基礎構造設計指針のいずれの基準も満たす設計を行った」と主張したが、基礎形式で8.15mの杭基礎を採用したが外周部のみの設置で、中央の大部分(30m四方)の土間コンクリートは直接地盤に接していた状況だったという事です。
その上で、判決では沈下の可能性は調査報告書からも容易に予見できたとし、建築士が十分な設計上の義務を怠ったとしております。
この建物では盛土60cmの造成工事も行われており、建築士は造成会社の責任も主張するも、判決では「造成会社の対策が不十分だったとしても、建築士はその対策が十分だったかどうかの確認をして、不充分だったのであればそれを是正する対策を講じなければならなかった」という趣旨の内容も下されていることは、注目すべきところかと思います。

<参考>盛土は1㎥あたり、約16~19kN(1.6~1.9t)の重量があるため、約1.25mの盛土で住宅1棟とほぼ同じ重量になります。軟弱地盤に60㎝の盛土をしただけでも相当の重量がかかると考えていただければと思います。
<参照元> https://xtech.nikkei.com/kn/article/building/news/20040116/114471/

この翌年1月上旬に建築士は控訴したという事ですが、ここで大事なことは、十分な注意を払っても見つけられないことでない限り、建築士の責任は大きいという事です。
不同沈下において原告との関係では、地盤会社や造成会社の責任ではなく建築士の監理・監修の問題であるという事であり、民法の規定上、20年間の「不法行為責任」が建築士に課せられているということになります。
因みに以前は、不法行為をしてたとしても20年経過すれば問答無用で権利消滅となっておりましたが、現在は「時効期間」となり、従来の「除斥期間」の廃止となっています。つまり時効期間の「中止」や「停止」もあり得ることに変わっており、もう少し言うと、20年以上経過しても不法行為責任が課せられる場合もあるということを補足させていただきます。

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3.【沈下訴訟】和歌山地裁判例3,828万円損害賠償命令

では、続いては「住宅」の不同沈下事故による判決事例を紹介させていただきます。
建築士の責任が大きいことはご理解いただけたかと思いますが、住宅会社やその代表者の責任はどのように問われるのでしょうか?
和歌山地裁の判例をもとにご説明させていただきます。

2008年6月11日 判決
裁判所:和歌山地方裁判所
原 告:個人(住宅所有者)
被 告:某住宅会社
判 決:被告に3,828万円の損害賠償命令
事 象:
1995年5月の建物の引き渡しから6ヵ月後、不具合が発生。2000年秋頃、地盤が不同沈下していることが判明し、基礎立ち上がりや基礎底盤に、ほぼ全域にわたってクラックが発生し、最大傾斜1000分の7の不同沈下が認められた。

この事例においては、宇都宮地裁の判例と同様に竣工後早い段階で不具合が発生しています。徐々に圧密沈下が進行し訴訟に至ったものになります。馴染みのない方はピンとこないかもしれませんが、住宅で1000分の7の傾斜というのは、とても住める状況ではないとんでもない沈下度合いであると言っておきます。通常は1000分の3を超えたぐらいから問題になってくるものですが、詳しい経緯はわかりませんが、ここまで傾くまで住宅会社が取り合わなかったのかな?だから訴訟にまでなってしまったのかな?と推測はできそうですね。
本件は軟弱地盤にべた基礎(直接基礎)で建築したことで沈下。建物の被害も大きく「再築費用」を求めた訴訟になります。
判決では、建築基準法施行令 第38条1項により、本件建物の基礎構造には、法令に違反する欠陥があると判決が下されることになりました。
誰の何の責任が下されたのか見ていきましょう。

判決の要旨:
●建築士A
上記法令違反及び建築基準法令適合建物を提供する義務を怠ったことによる「不法行為責任」を負う。

●住宅会社B
瑕疵補修に代わる「損害賠償義務」を負う。
不法行為責任を負うAの使用者として民法715条1項の「使用者責任」をも負う。
●代表取締役C
忠実義務を負っている為、Bの法令遵守義務違反に対し重大な職務懈怠があり、会社法429条に基づく第3者に対する「損害賠償責任」として、民法709条の「不法行為責任」も負う。

このように建築士の責任は勿論ですが、あくまでも建築士は建物に対する設計上の責任が重大なのであって、それを取り巻く環境を管理する住宅会社(法人)も代表者も「使用者責任」「損害賠償責任」があるという内容の判決になります。
特に被告は法人ではなく「個人(消費者)」となると、一般的には弱い立場の方になりますので、初動対応で十分な対応を怠ると事態は大きくなるといえるでしょう。
さらに、本件の損害賠償額については以下のように述べられております。

損害賠償金額:
本件建物の構造耐力上の安全を回復するには、建物解体後適切な地盤補強工事を施工した上で再築する他はない。
・建物の再築費用(地盤の修復含む):3,038万円
・代替建物レンタル費用:130万円 / 引っ越し費用:30万円
・慰謝料:100万円 / 調査鑑定費用:150万円 / 登記費用:30万円
・弁護士費用:350万円
合計:3,828万円を相当因果関係のある損害と認める。

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4.最後に

冒頭の話に戻りますと、地盤の沈下事故に対する責任は、建築士に課せられるものが非常に大きいです。ただ、地盤の知識まで豊富な建築士の方は少ないのが現状かと思います。
だからこそ、業務独占資格である各建築士の方は、各分野において「信頼できるパートナー企業」と連携していくことが必要なのかと思います。地盤業務においてもその一つでしょう。
また、訴訟で賠償請求を求められた企業、建築士はその後、どのようにしてその費用を賄うのでしょうか?資金力のある企業であればよいですが、数千万の賠償金額となると中小工務店では会社が傾くほどのダメージにもなりかねません。
不同沈下事故は稀な部類の事故ですが、それが故に準備不足のため、発生した時のダメージが甚大です。地盤補償の見直しや地盤のトラブルが起きた時、対応できる業者の確保など進められてみてはいかがでしょうか?在住ビジネスの「建サポ」では、それらすべてをカバーできる建築業務支援サポートメニューを用意しております。
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