「熱中症対策が義務化されたらしいけど、具体的に何をすればいいの?」
「もし対策を怠ったら、罰則はあるのだろうか…?」
企業の経営者や労務担当者の方であれば、このような疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
労働安全衛生規則が改正され、令和7年6月1日から施行されます。これにより、事業者による熱中症対策が強化されました。これに伴い、対策を怠った場合には罰則が科される可能性があり、企業にとって従業員の安全確保はこれまで以上に重要な経営課題となっています。
この記事では、熱中症対策義務化の罰則内容から、企業が具体的に何をすべきかまで、厚生労働省の指針に基づき網羅的に解説します。自社の対策が十分かを確認し、法令遵守と従業員の安全な労働環境づくりにお役立てください。
熱中症対策義務化の罰則内容
今回の法改正で最も気になるのが「罰則の有無と内容」でしょう。結論から言うと、事業者が講ずべき措置を怠った場合、罰則が適用される可能性があります。
違反時の罰則「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」
熱中症対策に関する新たな規定に違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
これは、従業員の生命や健康に関わる重大なリスクを放置したと見なされるためです。罰則を受けることは、金銭的な負担だけでなく、企業の社会的信用の失墜にも繋がりかねません。
根拠となる労働安全衛生法の条文
この罰則の根拠は、労働安全衛生法第119条です。今回の法改正により、熱中症対策に関する具体的な措置が労働安全衛生規則に追加されました。事業者がこれらの措置を講じない場合、同法第27条(事業者の講ずべき措置等)違反とみなされ、罰則の対象となります。
(参考:e-Gov法令検索 労働安全衛生法)
罰則対象となる事業者の措置義務
具体的に、以下のような措置を怠った場合に罰則の対象となる可能性があります。
- WBGT値の測定と、基準値を超える場合の作業中断や休憩時間の確保
- 休憩施設の整備や、身体を冷やすための物品の備え付け
- 労働者への安全衛生教育の実施
- 熱中症発生時の応急措置に関する体制整備
これらの措置は、従業員を熱中症のリスクから守るために最低限必要とされるものです。
制度の概要 いつから誰が対象?
次に、熱中症対策義務化の制度の全体像を解説します。「いつから」「誰が」対象になるのかを正確に把握しましょう。
施行日は2025年6月1日から
改正労働安全衛生法に基づく熱中症対策の強化は、2025年6月1日からすでに施行されています。夏本番を迎える前に、自社の対策状況を総点検し、必要な準備を整えることが急務です。
対象となる事業者と業種
今回の義務化は、特定の業種に限定されるものではありません。労働安全衛生規則で定められた「暑熱な場所」で作業を行うすべての事業者が対象となります。
具体的には、以下のような作業場所が該当します。
- 屋外作業
- 建設業、警備業、造園業、配送業など
- 屋内でも高温・多湿になる作業
- 製造業(溶解炉、加熱炉のある作業場)、調理場、倉庫内作業など
つまり、従業員が暑さによって健康を害するリスクのある環境であれば、業種を問わず対策が求められます。
厚生労働省による改正のポイント
厚生労働省が示した今回の法改正の主なポイントは、これまで努力義務とされてきた熱中症対策の一部を具体的な措置として義務化した点にあります。
特に重要なのが、客観的な指標である「WBGT値(暑さ指数)」を基準とした管理体制の構築です。これにより、事業者は感覚的な判断ではなく、科学的根拠に基づいた対策を講じることが求められるようになりました。
(参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案(概要)」)
企業がすべき具体的対策リスト
では、企業は具体的にどのような対策を講じればよいのでしょうか。厚生労働省の指針に基づき、企業が実施すべき対策をリスト形式で解説します。自社の対応状況をチェックしてみましょう。
WBGT値の測定と管理
- WBGT値の測定
WBGT値(暑さ指数)を測定できる機器を準備し、作業場所の暑さの状況を正確に把握することが義務付けられました。測定は作業時間中、定期的に行う必要があります。 - 基準値に応じた措置
測定したWBGT値が基準値を超える場合は、作業を中断する、こまめに休憩を取らせる、作業時間を短縮するなどの措置を講じなければなりません。
休憩施設の確保と身体冷却物品の備え付け
- 涼しい休憩場所の設置
作業場所の近くに、冷房設備のある休憩場所や、日陰で風通しの良い場所を確保する必要があります。 - 身体を冷やす物品の備え付け
シャワー設備、氷、冷たいおしぼり、ミストシャワーなど、労働者が体をすぐに冷やせる物品や設備を備え付けます。 - 水分・塩分の補給
経口補水液やスポーツドリンク、塩タブレットなどを常備し、労働者がいつでも自由に摂取できるようにします。
労働者への安全衛生教育の実施
- 定期的な教育
熱中症の症状、予防方法、応急措置、WBGT値の見方などについて、労働者に対して定期的に安全衛生教育を行う必要があります。 - 周知徹底
当日のWBGT値や熱中症の危険性について、朝礼や掲示物などで作業員全員に周知徹底します。
熱中症予防管理者の選任
- 管理者の選任
事業者は、熱中症予防に関する業務を管理させるため、「熱中症予防管理者」を選任することが推奨されています。特に、専門的な知識が必要な現場では重要な役割を担います。 - 管理者の役割
熱中症予防管理者は、WBGT値の測定、作業計画の確認、労働者の健康状態の確認、異常時の措置などを担当します。
熱中症発生時の応急措置と連絡体制の整備
- 緊急連絡網の作成
熱中症の疑いがある傷病者が発生した場合に備え、管理監督者や医療機関への緊急連絡網を整備し、全労働者に周知します。 - 応急措置の準備
涼しい場所へ避難させる、衣服を緩めて体を冷やす、水分を補給させるといった応急措置の手順を定め、必要な物品を準備しておきます。意識がない場合は、ためらわずに救急車を要請することが重要です。
WBGT基準と作業中止の判断
対策の中でも特に重要なのが「WBGT値」の管理です。ここでは、WBGT値の基本と、作業中止の判断基準について詳しく解説します。
WBGT値とは?
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)とは、気温、湿度、日射・輻射熱の3つを取り入れた、熱中症リスクを評価するための指標です。一般的に「暑さ指数」と呼ばれ、気温だけでなく、人体への影響が大きい湿度や日差しなども考慮されているのが特徴です。
WBGT値の測定方法と推奨測定器
WBGT値は、専用のWBGT測定器を使用して測定します。様々なメーカーからハンディタイプや設置型の測定器が販売されており、作業環境に応じて適切なものを選ぶことが重要です。
測定は、作業を行う場所の地上0.5m~1.5mの高さで行うことが推奨されています。屋外であれば日なたと日かげの両方、屋内であれば熱源の近くなど、作業環境を代表する場所で測定します。
作業別のWBGT基準値と措置
厚生労働省は、作業の強度に応じてWBGT基準値を示しています。この基準値を超えた場合は、熱中症リスクが著しく高まるため、作業の中止や休憩の強化といった措置が必要です。
区分 | 例 | 暑さ指数 | |
熱に順化している人 | 熱に順化してない人 | ||
0:安静 | 安静・楽な座位 | 33℃ | 32℃ |
1:低代謝率 |
軽い手作業(書く・タイピングなど) |
30℃ | 29℃ |
2:中程度代謝率 |
継続的な手及び腕の作業(くぎ打ち、盛土) |
28℃ | 26℃ |
3:高代謝率 |
強度の腕及び胴体の作業 |
26℃ | 23℃ |
4:極高代謝率 |
最大速度の速さでのとても激しい活動 |
25℃ | 20℃ |
(参考:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」)
(参考:厚生労働省「暑さ指数について」)
自社の作業内容がどのレベルに該当するかを確認し、WBGT値に応じた作業管理計画を立てることが、法令遵守と安全確保の鍵となります。
熱中症対策義務化に関するQ&A
最後に、熱中症対策義務化に関してよく寄せられる質問にお答えします。
パートや派遣社員も義務の対象か?
はい、対象です。
事業者は、パートタイマー、アルバイト、派遣社員など、雇用形態に関わらず、自社の管理下で働くすべての労働者に対して安全配慮義務を負います。したがって、熱中症対策も全労働者を対象に実施する必要があります。
会社が対策しない場合の労働者の相談先は?
会社の安全衛生担当者や労働組合にまず相談しましょう。
それでも改善されない場合は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に相談することができます。労働基準監督署は、事業者に対して指導や是正勧告を行う権限を持っています。匿名での相談も可能です。
建設業で特に注意すべき点とは?
建設業は屋外での肉体労働が多く、特に注意が必要です。以下の点に留意してください。
- こまめな休憩と水分補給: 作業の合間に短い休憩を頻繁に取り入れ、計画的に水分・塩分を補給させることが重要です。
- 通気性の良い服装: 吸湿性や速乾性に優れた作業服や、ファン付きの空調服の着用を推奨します。
- 単独作業を避ける: 万が一の事態に備え、作業員が単独で作業する状況を極力避け、互いに健康状態を確認できる体制を整えましょう。
厚生労働省の公式リーフレットの入手方法とは?
厚生労働省のウェブサイトから、熱中症対策に関する最新のリーフレットやガイドラインをダウンロードできます。「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」の特設ページに、事業者向け・労働者向けの分かりやすい資料が多数掲載されています。
(参考:厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)
まとめ
今回は、熱中症対策の義務化に伴う罰則と、企業が講ずべき具体的な対策について解説しました。最後に、本記事の重要なポイントを振り返ります。
- 罰則: 対策を怠った場合、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性がある。
- 施行日: 2024年4月1日からすでに始まっている。
- 対象: 屋外や高温多湿な屋内で作業するすべての事業者が対象。
- 具体的対策:
- WBGT値(暑さ指数)の測定と管理が必須。
- 涼しい休憩場所、身体冷却グッズ、水分・塩分を準備する。
- 労働者への安全衛生教育を定期的に実施する。
- 熱中症発生時の緊急連絡網と応急措置体制を整備する。
熱中症対策は、罰則を回避するためだけのものではありません。何よりも、大切な従業員の命と健康を守るための重要な取り組みです。この記事を参考に、自社の熱中症対策を見直し、安全で快適な職場環境を整えていきましょう。
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