円安による輸入コストの上昇など、鉄骨における価格高騰が続く中、建築業界においては木造に注目が集まっています。関西万博の大屋根リングに象徴されるように木造建築には大きな可能性があり世界的にも、その評価は高くなっています。
中でも神社仏閣などで使用される伝統的な貫(ぬき)接合による工法は、接合金物を使わない芸術的な日本ならではの技術と言えます。これらは鉄骨造でなくても計算された木造建築であれば、引けを取らない可能性を秘めていると言えるでしょう。
では、高騰している鉄骨造に変わり木造化では、できる範囲でどこまでの対応ができるでしょうか?
本コラムでは、倉庫やホームセンターなど平屋の中規模施設の木造化に工務店の新たなビジネスチャンスがある事をお話しさせていただきます。
鉄骨価格高騰と脱炭素社会が木造化の追い風
2025年4月から施行された建築物省エネ法改正を機に一気に脱炭素社会の構築に向かっていくのが世の中の大きな流れとなり、日本国内においても国を挙げて国産材の利用推進が加速します。それを後押しするように様々な世界情勢の影響で円安が進み、鉄骨の価格高騰が進んでいます。
それらを背景に建築業界では木造の価格競争力が高まり追い風となっています。
もはや、木造建築は住宅に留まらず、非住宅などの構造物にも木造化を加速させるチャンスと言えるでしょう。
ただ、現実的には期待値より木造化が加速していないのも事実かもしれません。
それは何故なのか?
一般的に「住宅」と言えば「木造」というのが固定概念である通り、「大規模・中規模の非住宅」又は「倉庫や事業用施設」と言えば、迷うことなく「鉄骨造」という業界の固定概念が重大なボトルネックとなっていると言えるかもしれません。
また、木造では中規模施設の設計で重要な大スパンを構成するのは構造上難しいのではないかという構造設計上の固定概念も影響していると言えるでしょう。
このあたりの障壁を考え方ひとつで乗り越えられた工務店には、新しい可能性が開けてくると感じるが故に、ここでは強く伝えていきたいと思いますが、特に中規模の平屋施設などは木造で検討することは、決してハードルが高くは無いという事です。
近年、住宅生産インフラである住宅一般流通材や既製品の接合金物、プレカットなどの進化により、非住宅木造建築の構造コストは下がっています。
また大きな空間にも無理なく対応もできるようにもなってきております。
例えば、スパン13m、軒高6m程度の空間であれば鉄骨造に対しても十分に価格競争力があると言えるでしょう。
1つ例を上げましょう。
在住ビジネスの設計顧問である「ウッド・ハブ合同会社」の事例になります。
建築地:広島県 / 用途:バイクショップ /スパン:13.65m /桁行:24.57m
軽量鉄骨造(計画) |
木造(計画) |
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建築費 |
(内訳)躯体・基礎 |
4,401万円 |
2,877万円 |
(内訳)外壁・屋根・サッシ他 |
5,030万円 |
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総額 |
9,431万円(坪94万円) |
7,907万円(坪79万円) |
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構造体差額 |
1,524万円 |
これは、軽量鉄骨で計画していた広島県のバイクショップの案件ですが、木造化で検討することで構造躯体のコストを約16%コストダウンができた事例になります。
このように意外と知られていないのが木造のコストパフォーマンスであり、鉄骨造に勝てる木造の守備範囲なのです。
木造化を阻むボトルネック
木造の価格競争力がある事はご理解いただけたかと思いますが、現実的には工務店が中規模の非住宅物件を木造で対応する場合、もう一つ課題があります。
通常、工務店が非住宅物件の引き合いを受けた場合、プレカット工場に相談することが普通かと思います。ここで問題なのがプレカット工場は構造体の生産や躯体費の算出はできますが、どうしても構造計画の対応は難しいことが多いです。一方で、構造設計事務所は構造計画こそできますが、躯体費等の算出は難しく計画の段階で概算コストがつかめず、なかなか木造化に踏み込めない実態があります。
実は、工務店がなかなか非住宅木造建築に踏み込めない要因は、この部分が多いかもしれません。構造計画とコスト感をつかめる体制が組めればハードルも低くなると言えるでしょう。
このような課題はゼロから構造計画を立てようとすると生じてしまいますが、例えば、構造の基本フレームが規格化されていたらどうでしょうか?
規格化された構造フレームをベースに計画を立てることで初期段階の概算コストを把握でき、鉄骨造か木造かの判断が可能になると言えます。
実は、先に述べたバイクショップの事例は、このやり方で実現できたものになります。
「WHフレームシステム」ウッド・ハブ合同会社開発
規格化された構造基本フレームを述べさせていただきましたが、今、注目を浴びているのが構造設計事務所「ウッド・ハブ」(新潟県三条市)が開発しジャパン建材㈱、㈱ジューテック、BXカネシン㈱、㈱タツミの4社と協業して普及を目指している「WHフレームシステム」です。これは、構造計画と期の概算見積の手間を省略合理化し、倉庫や店舗、工場などの平屋の中規模木造施設を建築できる誰でも活用できる事を目指したオープンソースになります。
プレ設計・プレ積算された基本フレームを活用することでスピーディな初期対応が可能となり受注率の向上をサポートするものになります。
ここで初期コストの比較で木造化が決定したら、基本フレームを活用して基本計画を実施、仮伏図の作成と進めます。このプレカット伏図を元に精度の高い見積りを行っていくことでコストをにらんだプロジェクト管理していくことが可能になるというもので、先に述べたボトルネック解消を図るものになります。
では、その根底になるWHフレームについて少しお話しさせていただきます。
ポイントは特殊な材料を使うわけではなく、住宅用一般流通材と既製品の接合金物で構成され、プレカットも住宅用の工場で加工。現場も住宅建築の大工さんで施工が可能なところです。一般的なトラス梁は「鉛直荷重を支える梁」であるため、水平力には抵抗できず、地震や台風などの横揺れに対しては耐力壁が必要になるものです。
一方、WHフレームは独自の架構により「鉛直力だけではなく水平力にも抵抗できる自立型フレーム」のため、長いスパンをもった大きな空間や全面開口など、非住宅建築に求められる架構の設計が無理なくできるところが大きなメリットとなっています。
▽詳しくは、WOOD HUBの設計事例、報道記事をご参照ください。
設計事例 – https://woodhub-llc.com/case/
日本住宅新聞/工務店の非住宅参入を後押し 「WHフレームシステム」 – https://www.jyutaku-news.co.jp/article/company/a1587
まとめ
今回は非住宅の中規模木造について取り上げさせていただきましたが、趣旨としては、住宅の着工数が減少しており、工務店のチャンスは非住宅木造にありという事をお伝えしたく記載させていただきました。
市場が狭くなっていく住宅分野での競争では必ずある程度の工務店は淘汰されていくでしょう。では、リフォーム分野を手広くしようとしても今回の法改正はリフォーム分野にも厳しい内容となっております。
非住宅の中規模木造においては敷居が高いイメージが先行しておりますが、意外と敷居は低く視点を変えることで工務店の活路となることを知るきっかけとなってくれればと思います。
構造躯体の規格化について、WHフレームは入会金や年会費が不要なオープンソースとなっているので取り組みやすいと思います。
先入観を捨てて新しい分野に足を踏み込むことで新たな市場が見えるかもしれません。
お困りの場合は在住ビジネスにお問合せをいただければ、サポートもさせていただきますので、その際はお気軽にお問い合わせください。