前回のコラム(https://zaijubiz.jp/column/2025-05-14/)では、建築基準法改正による構造計算の合理化と仕様規定の新基準に関して整理させていただきました。従来の4号建築物では構造に関することは審査省略制度(4号特例)によって、曖昧な部分が多かったと思います。
ただ、忘れてはいけないのは、法改正前も「構造確認を行わなくても良い」という訳ではなく、4号建築物においても「いちいち審査しなくても当たり前のように設計者が構造確認をしてくれているはず」という性善説で成り立っていたという事です。
その視点から考えれば、仕様基準の変更は大きな変更ですが、確認申請で審査項目が増えたこと自体は、やるべきことをきちんとやっていれば、それを審査されるか否かの違いだけになります。
確認申請で必要な図書については、国交省の資料ライブラリーからダウンロードできる「確認申請・審査マニュアル」にも記載がありますので、本コラムでは細かいお話は省かせていただき、今回の法改正において本当の意味で重要な「設計者責任」の視点で重要なポイントをお話しさせていただきます。
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1.建築確認申請図書について
まず初めに、確認申請における必要図書についてが気になるところかと思いますが、こちらに関しては、先に述べたように「確認申請・審査マニュアル」をご確認ください。
<確認申請・審査マニュアル>(国土交通省 資料ライブラリーより)
20-21ページに、4号特例では審査対象外だったもので、今後は審査対象になる項目が一覧で記載されています。単体規定では、壁量や柱の小径以外にも、屋根・外壁の防火性能や居室の採光・換気・電気設備等も審査対象になることが記載されています。
構造詳細図として柱頭柱脚金物の仕様や納まり図や壁量計算書等も必要になります。
様々な項目が審査対象になることになりましたが、今回は新たに整備された書類である「仕様表」について、気になる点がありますので注目していきたいと思います。
前回コラムで、この「仕様表」が整備されたことで「伏図の省略」ができることになったとお話しさせていただきましたが、裏を返せば、この「仕様表」は「伏図」と同等レベルの設計者責任が伴う構造資料とも取れます。
つまり、「この建物を建てる上で各項目をどのような根拠で設計しましたか?」と聞かれている書類と受け止めても良いでしょう。
そして、「提出さえすればよい」ということではなく、「今後は、そのそれぞれを審査するのでわからないことがあったら設計者としての判断根拠を聞きますよ」と、こういうことになります。この部分の理解が最も重要な点であり、逆に言えば、この基本的な考えが持てていれば確認申請でも困ることは少ないかと思います。
1つ、私ども在住ビジネスが着目している点を例として挙げさせていただきます。
以下の表は、仕様表の構造部材に関する項目の「基礎・地盤」に関する箇所の一部抜粋になります。
令第3章第2節 (構造部材等) |
構造部材の耐久 |
構造耐力上主要な部分 |
基礎 |
支持地盤の種別及び位置 |
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基礎の種類 |
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基礎の底部の位置 |
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基礎の底部に作用する荷重の数値・算出方法 |
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木ぐい及び常水面の位置 |
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鉄筋 |
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地盤調査 (令第38条) |
地盤調査 |
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地盤改良 |
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屋根ふき材等 (令第39条) |
屋根ふき材の固定方法 |
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屋外に面する部分のタイル等の緊結方法 |
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太陽光システム等を設置した際の防錆処理 |
「地盤」に関する項目があります。さらに、地盤調査、地盤改良に関する項目があります。
この4月以降、当社の地盤関連業務行っている部署には多くの問合せが寄せられています。
「確認申請で地盤の判定内容を聞かれているので、早く調査してほしい」
「地盤改良なしの判定根拠を聞かれているので、根拠資料を出せないか?」
「地盤調査報告書を検査機関に出しても、この判定になった根拠の説明ができない」
検査機関や地域によっても異なるかもしれませんが、皆さんも同じような経験をされていないでしょうか?
何故、このようなことになるのでしょうか?
当然、当社はタイトな日程でも地盤調査・改良工事を全国対応で実施してきております。
そして、調査報告書に当然、判定の考察文も記載しておりますし、沈下検討書などの提出協力もしております。それなのに、調査報告書や沈下検討書などを提出しても、「その判断に至った根拠」を聞かれるというのです。
おそらく、先に記載させていただいた「設計者としての判断根拠を聞きますよ」の部分の認識の相違が原因と思われます。
「地盤に関しては、地盤会社の判断によるもの」と思い込んでいる方も多くいます。
ただ、本来は地盤の判断、改良工事の設計内容は設計者の責任であることは、国土交通省の告示でも示されています。
国土交通省 告示1113号
基礎の底部から下方2m以内の距離にある地盤に、スウェーデン式サウンディングの荷重が1kN以下で自沈する層が存在する場合、若しくは基礎の底部から下方2mを超え5m以内の距離にある地盤に、スウェーデン式サウンディングの荷重が500N以下で自沈する層が存在する場合にあっては、建築物の自重による沈下、その他の地盤の変形等を考慮して、建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない。
※在住ビジネスHP「設計者責任について」参照
その為、「地盤調査報告書」「沈下検討書」などは、あくまでも地盤会社の見解であって、「それを確認した上で、設計者としての判断根拠を出してください」という事で、検査機関と認識が噛み合わない事象が起きていると思われます。
今回は、地盤の項目を一例として記載させていただきましたが、今後審査対象になる項目においては、全て同様の認識が必要と言えます。
この時期、このようなやり取りが確認申請時に全国で行われているのかと考えると、当初想定より、確認済証の取得までにかかる日数は、かなり長いのではないか推測しますが、そのあたりは、もう少し実態が見えてきてからの統計になってくることかと思います。
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2.計画変更と軽微な変更
細かいお話はさておき、確認申請時に重要なので「審査される=設計者責任の認識が重要」ということを述べさせていただきましたが、着工から完了検査までの間においても大事なポイントがありますので、お話しさせていただきます。
確認申請時に審査する項目が増えて、かなり細かい判断根拠を求められる。
という事は、「施工中にその内容を勝手に変えていけませんよ」という事になります。
また「変えてしまったのなら、もう一度、審査しないと駄目ですよ」という事にもなります。
これが、確認申請・審査マニュアルの146-151Pに記載されている「計画変更と軽微な変更」についての内容になります。
基本的な考え方としては、先に述べた通り、「確認済証の交付を受けた後に計画が変更した場合は、その工事に着手する前に改めて『計画変更の建築確認を行い、確認済証の再交付を受けなければならない」というのが大原則にあります。
簡単に言えば「4号特例の時みたいに、曖昧なまま建物を完成させませんよ」という事になるでしょう。但し、「軽微な変更」だったら、中間検査・完了検査の時に説明してくれれば、その計画変更手続きまではしなくてよいことになっています。
ただ、その「軽微な変更か否か」の判断が難しいのではないと、私は個人的には考えていますが、「軽微な変更か否か」の判断は誰がするのか?
これは「申請者等」が判断するとなっています。
どうやって判断するのか?
「建築基準関係規定に適合することが明らかなもの」を軽微な変更と判断するとなっています。仕様規定の範囲内で判断できる変更という事になりますが、具体的な例が無いと判断に迷うと思います。
「軽微な変更」の事例 |
事例① 耐力壁の位置・量等の変更(仕様規定) 変更前後とも壁量基準の範囲内での変更で、仕様規定のみで法適合が確認できるなど |
事例② 間仕切壁の位置の変更 主要構造部及び防火上主要なものに該当しない間仕切壁の位置の変更 |
事例③ 開口部の位置や大きさの変更 配管貫通口等の壁の小さな開口部の位置や大きさの変更など |
事例④ ダクトの長さ等の変更 ダクト等のルート変更と同時に換気ファンの能力等を調整し、ダクトの長さ等に変 更が生じても換気システム全体として性能を低下させないなど |
他にも、細かい説明は確認申請・審査マニュアルに記載がされておりますので、確認いただければと思います。
ただ、それでも判断に迷うケースが必ずあると思いますので、事象が起きた時点で事前に建築主事に相談・調整を求めることが重要かと思います。
その為には、施工担当者にも4号特例の時代の感覚で対応されると困ってしまいます。
このあたりの正確な知識を設計者と工務担当者が正確に共有できていることが大事なことだと思います。
また、省エネ法改正でお話しした内容とも類似する部分です。
省エネの構造も今回の法改正で、「基準に見合っている内容で申請してください。そして、申請した内容通りに完成しているか、最後まで確認します。」と、このようになっておりますので、ご注意いただければと思います。
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3.建物確認検査、審査にかかる日数
ここまでのお話で「審査する側」も「審査される側」もかなりの労力と時間を要することになることは想像できるかと思います。
従来の4号特例では7日程度だった確認申請も、2号建築物になったことで今後は特定行政庁では「35日以内」と示されています。省エネ適合性判定が絡む場合はさらに、最長で「+35日以内」となっています。
最悪の場合、2か月ぐらい着工できないことになります。
あくまでも最長の場合ということなので、実際はそこまでは日数はかからないと思いたいところです。
民間の検査機関では、14日前後という回答が5割を占めるとも言われており、比較的短い日数で進められるようです。
ただ、先程お話した通り、検査機関と建築主側で設計者責任の認識の齟齬があると、この限りではないと思います。
制度上の変更点の理解も重要ですが、今回の法改正では住宅設計者の設計責任の意識の変化が重要なポイントと言えます。伏図等をプレカット業者に任せたままにしていると、先程の地盤のケースと同様に設計責任の所在が曖昧になります。
例えば、プレカット図はあくまでもプレカットするための図面であり、構造図でも施工図でもありません。
新築住宅の確認申請をスムーズに進めていく上で必要なことは、そういった意識改革なのかもしれません。
次回からは、リフォーム分野の視点で法改正のお話をさせていただきます。
新築業務でお困りのことは、在住ビジネスの「建サポ」までお問い合わせください。
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