大気汚染防止法及び石綿障害予防規則の改正により、2021年から段階的に規制強化されてきたアスベスト対策問題。
2023年10月に建築物石綿含有建材調査者による石綿事前調査の義務化がされてから、早いもので1年が経過しました。
当時からリフォーム業界では対応整備以前に、法改正が認知されていないという状況が多く見受けられました。
アスベスト対策がなされない違法工事のニュースも見受けられる今、改めてリフォーム・改修・解体工事では、どのようなことに気を付けないといけないのか、本コラムでお話しさせていただきます。
1,石綿規制強化のおさらい
石綿は、「いしわた」「せきめん」「アスベスト」など様々な呼び方がありますが、ここでは石綿(いしわた)で記載させていただきます。
ご存じの通り、石綿は人体に悪い影響を及ぼすことから、2006年9月以降はその含有建材などの使用は禁止されております。
その為、環境省は「大気汚染防止法の改正」、厚生労働省は「石綿障害予防規則の改正」という形で、石綿の含有建材に対する扱いの規制を強化するということで、下記のように2021年4月から段階的に規制強化を進めてきました。
●2021年4月1日~
「全ての改修工事の石綿事前調査の義務化」
●2022年4月1日~
「一定規模以上の工事は元請業者が労働基準監督署へ工事前の調査報告の義務化」
※一定規模の定義(建築物の場合)
解体工事の場合:解体部分の床面積の合計が80㎡以上
改修工事の場合:請負金額が税込100万円以上(一体の工事とみられるもの全て)
●2023年10月1日~
「石綿事前調査は建築物石綿含有建材調査者等の有資格者による調査が義務化」
なかなか業界への認知が進まないのは、全国的にも対象工事が1000万件以上にも及び、対応しきれないのも勿論、国の周知活動も弱いのが要因の一つとも感じます。
当時、リフォーム業者の方々とお話しさせていただいた中では、工事をする側の都合の良い解釈をされているケースも多かった印象が頭をよぎります。
ポイントは「全ての改修工事が対象」ということかと思います。
全ての改修工事の解釈が難しいですが、大小問わず、建材に対する破壊行為が伴う工事か否かと理解するとわかりやすいかと思います。
つまり、例えば、エアコンの取り付け工事で壁にビス一本打ち込むだけで該当すると理解してもらえればよいと思います。
「石綿含有の可能性がある建材を少しでも破損させると石綿が飛散する可能性がありますよね?」という事です。
これは、労働者の健康被害を防ぐことが目的でもあるため、法改正の中では工事業者だけではなく、お施主様においても「配慮義務」が課せられており、建築時の資料提供など工事の障害になるようなことはせず、協力してあげてください。また、石綿問題は関わる人全体で取り組む課題です。という事を本コラムで改めてご理解いただければと思います。
法改正の内容は、詳しいことを記載すると書ききれないほどの内容になりますので、ここまでとします。ここからは、これらを守られない違法工事の結果、書類送検された具体的な事例などを記載させていただきます。
2,石綿事前調査をせず解体工事を実施で書類送検の事例
2024年9月に岐阜県の解体業者による石綿関連の違法工事が発覚し、書類送検となった事象が発生しました。
解体工事においては、「解体部分の床面積の合計が80㎡以上」の工事に関しては、石綿事前調査結果の報告が義務づけられていますが、本件に関しては、そもそもの「石綿事前調査」を実施していなかった事例になります。
報告義務の対象と石綿事前調査の対象物件を整理できていないケースも多いですが、石綿事前調査に関しては、「全ての改修・解体工事」が対象であるという事を認識してほしいと思います。
特にこのケースでは、「建築物石綿含有建材調査者」の資格を保有していたにもかかわらず、事前調査を実施していなかったため、「法改正を知らなかった」では通らない事例としてうなずける内容かと思います。
▽参照記事はこちら
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b9d05301e3f9840611e2b4e3e98d3ef54d14c39
3,改修・解体時のアスベスト調査 年間150万件近くの違法工事の実情?
2024年8月に石綿事前調査の報告義務の統計データが初めて公表されました。
2022年4月から一定規模以上の解体・改修工事における石綿事前調査結果の報告義務が開始した年度の報告件数が約62万件に上ったとのことです。
これが適切な数字なのかどうかは判断しづらいので、本来の対象件数を以下に記載します。
国土交通省の「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」によれば、2022年度の改修工事は計1011万8393件。そのうち報告対象の改修工事(請負金額100万円以上)は191万3302件とのことです。
さらに解体工事における正確な報告対象(80㎡以上)数は不明ですが、推定では約28万件と言われています。
合わせると約220万件弱の報告対象を分母として、約62万件の報告実績なので、明らかに報告件数は大幅に少なく、約150万件以上の違法工事の可能性が推察できます。
あくまでも2022年度の統計データに基づく実態ではあるので、今年度はもっと周知が進んでいると思いたいところですが、明らかに現場が法改正に追い付いていないことが見て取れます。
▽参照記事はこちら
https://news.yahoo.co.jp/articles/7e7c8eb2976da105d8a66ffcc9e5e0326061e26c
4,最後に
石綿事前調査だけでも多くの改正点があり、様々なニュースにもなるようになってきております。ただ、石綿問題においては、事前調査後の施工時の飛散防止対策、工事看板の掲示、また産業廃棄物の対応など、多くの守らなければならないルールがあり、リフォーム業者、解体業者を悩ませているのは事実です。
先に記載の通り、まじめに対応している業者が一部で、守っていない業者が大半である現状は「正直者がなんとやら・・」という不公平な状況を生んでおり、是正していく必要があるのが今後の課題です。
ただ、時間はかかれど全ての業者が遵守しなければならない重要な法改正ですので、本コラムをお読みの関係業者の方は、改めてご理解の上、法令順守の取り組みに努めていただければと思います。
▽石綿事前調査の外注のご検討はこちら
https://zaijubiz.jp/service/asbestos/