コラム

「建築基準法改正」構造計算の合理化と仕様規定の新基準を確認しよう(新築用)

2025年4月から、いよいよ建築基準法改正が施行されました。
建築物省エネ法改正と同様に大変大きな改正であり、全国の住宅会社では従来とは異なる手続きに大変困惑していることかと思います。
今回の改正で大きなポイントは以下の3点かと思います。

<建築基準法改正の重要ポイント(新築)>

  建物条件 計算方法 備考

2号
建築物

3階建て

許容応力度計算
(簡易な構造計算)

壁量規定の省略ができる
2階建て 300㎡超
300㎡以下 仕様規定 新基準に変更
平屋建て 300㎡超

許容応力度計算
(簡易な構造計算)

壁量規定の省略ができる
300㎡以下 仕様規定 新基準に変更

3号
建築物

200㎡以下 審査省略制度の対象 (旧4号特例)

本コラムでは、施行されてから新たに分かってきた内容も含めて、最も関心が高いと思われる構造計算の合理化及び仕様規定の変更点についてお話しさせていただきます。
本題に入る前に、新法は着工ベースで4月から施行されておりますが、壁量基準に関しては1年間の経過措置が設けられることになっております。
つまり、「2026年3月までは従来の規定で計算しても良いですよ」という事になります。
長年続いた壁量係数の変更に順応できない工務店・住宅会社に対する措置になりますが、設計する側にはありがたい話ですが、お施主様側からすると丁寧な説明が無いとトラブルのもとになりますので、充分ご注意ください。
基本的には、2025年4月から新基準に変わっていることが大原則になるため、経過措置終了後の2026年4月1日以降は「既存不適格」となる(可能性がある)という事を、お施主様に充分に理解できる説明をする必要があるという事になります。
また、この経過措置を「全ての法改正の内容に対する猶予期間」と誤認している方も見受けられます。あくまでも「壁量基準」に対する経過措置であって、確認申請時に構造関連が審査対象になることに経過措置はないことも、お間違えないようにしていただければと思います。

▽コラム「建築物省エネ法改正 確認申請フローを確認しよう」はこちら
https://zaijubiz.jp/column/2025-05-07/
▽建サポ「構造計算(許容応力度計算/壁量計算)」の詳細はこちら
https://zaijubiz.jp/service/structural/
▽建サポ「地盤調査/地盤補強工事」の詳細はこちら
https://zaijubiz.jp/service/j-optimize/
▽構造関連図書の業務にお困りの方は建サポまで
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1. 構造計算の合理化

まずは冒頭で触れさせていただきました「構造計算の合理化」についてお話しさせていただきます。
結論から申し上げますと、今回の新壁量基準で間違いなく耐震性能は向上するでしょう。
簡単な経緯として、世の中の流れは「省エネ」です。
建築物省エネ法改正に伴い、今後、2050年までの間に国内の建築物の省エネ性能は急激に向上していきます。省エネ性能が高くなる、創エネ(太陽光パネル)が進む、ということは当然建物も重くなる。であれば構造上も強いものにしないといけない。
このような流れから、従来の4号建築物を主な対象とした建築基準法が改正されたという事をおさえておきたいです。
全ての住宅に対して許容応力度計算ができればよいのですが、絶対数が多すぎるため構造計算を合理化するということで仕様規定が整備されることになり、必要壁量の算出方法も整備されたという事になります。

では、木造2階建て・平屋(一部を除く)が2号建築物となったことで、構造確認はどのような整理になるのでしょうか?
高さ16m以下の木造建築物について簡単に整理してみました。

  建物条件 計算方法 備考

2号
建築物

3階建て

許容応力度計算
(簡易な構造計算)

壁量規定の省略ができる
2階建て 300㎡超
300㎡以下 仕様規定 新基準に変更
平屋建て 300㎡超

許容応力度計算
(簡易な構造計算)

壁量規定の省略ができる
300㎡以下 仕様規定 新基準に変更

3号
建築物

200㎡以下 審査省略制度の対象 (旧4号特例)

まずは、木造3階建てにおいては、従来通り許容応力度計算によるものとなりますが、壁量規定が省略できることになったことは注目すべき点かと思います。壁量規定では成り立たないような難易度の高いプランでも実現できる可能性が出てきたのは、大変有意義な変更点かと思います。
また、木造2階建て以下における許容応力度計算が従来の500㎡以下から300㎡以下に引き下げられている点は、対象建物が増えますので注意が必要です。
従来の4号特例にあたる審査省略制度の対象となる建物は平屋建て200㎡以下のみととなり、それ以外の建築物は、仕様規定でも対応可能という整理になります。

その仕様規定が新基準になったという事ですが、内容を整理していきましょう。
今回の建築基準法改正は施行の何年も前から議論はすすめられていました。
以前、全ての木造建築物において許容応力度計算になるかもしれないという話が上がっていた頃は、業界に大きな不安を煽りましたが、最終的には木造建築物の構造計算の合理化を図るという観点から仕様規定が整備されたという流れになります。
「合理化」とは何を意味するか?
それは「伏図が省略」されたことが、最も合理化に値する点かと言えるでしょう。
その代わりに今回から「仕様表」が示され、確認申請時に提出することになります。
仕様表に各項目の判断を何に基いて判断したのかを記載し、合わせて新基準による壁量計算等の資料が建築確認申請の「構造関連図書」と位置付けられることになりました。
要は、「仕様表と壁量計算等の資料を出してくれれば、伏図は省略しても良いですよ」ということです。
「仕様表」のフォーマットに関しては、国土交通省のホームページ からダウンロードができますので、そちらでご確認いただければと思います。

2.新基準の仕様規定

では、ここで言う壁量計算の必要壁量の算定方法が変更になったことが、大変大きな変更点なので、この点においても整理してみましょう。
今回、仕様規定が新基準になったという事ですが、大きく分けてポイントは2点です。
1つは、「壁量係数が見直し」されたこと。
もう1つは、「準耐力壁も構造計算上で算入できる」ようになったこと。

まずは、壁量係数の見直しについてですが、屋根の「軽い・重い」で対応していたものが、今後は「屋根の重さ」「各階の面積」「太陽光の有無」などを考慮して、必要壁量を算出し、耐力壁を配置していくことに変わっており、その必要壁量を「早見表」「表計算」というツールを使って算出するという整理になっております。

壁量算出方法 概要 メリット・デメリット
早見表  太陽光あり

太陽光有無(2種)・各階階高(3種)・各階床面積割合(7種)の計42種

さらに屋根の仕様(3種)・外壁の仕様(5種)から当てはまるパターンを選択し、必要壁量・柱の小径を算出

<メリット>
決められたパターンから選択す
るため計算不要で手軽

<デメリット>
正確な計算を行わないので構造
体が過剰な仕様になりやすい

 太陽光無し
表計算

 在来軸組工法用
 ver.1.1


エクセルで必要情報を入力していき、自動計算で必要壁量・柱の小径を算出

物件ごとに詳細情報を入力するため、ある程度実態に近い数値が算定される

入力項目が少ない通常の計算ツールだが、積雪荷重等の考慮が無い

 多機能版
 ver.1.2

入力項目がより詳細であり、積雪荷重の算定も可能で、耐震等級2以上にも対応できる

※計算ツールに関しては、公益財団法人日本住宅・木材技術センターのホームページ にてご確認ください。

早見表に関しては、決まったパターンから現在設計中の物件条件に当てはまるものを選定し、必要壁量と柱の小径を算定するもので、計算不要で容易なツールになっております。
ただ、当然ですが詳細情報を指定しないものは、安全寄りの仕様を導き出すものです。手間がかからない分、構造体は過剰スペックとなることは否定できません。
柱の小径は120角(4寸角)などが目に付くかと思いますが、お試しいただければと思います。因みに、早見表は「階高3.2m」、「オーバーハング120/100」などを上限としたパターンになるため、当てはまらないものは表計算ツールで対応することになります。

その表計算ツールは、現在は通常のVer1.1と多機能版のVer.1.2の2通りが用意されております。早見表との簡単な比較はこのようになります。

  表計算(多機能版) 表計算(在来軸組工法用) 早見表
入力情報量(手間) 多い 普通 無し
算定精度

詳細の計算が可能
実態に近い

普通 過剰な仕様

当たり前ですが、詳細な情報を設定すればするほど、正確な数値が算出できますので、そういった面では表計算(多機能版)はお勧めです。
積雪荷重の算定も可能で耐震等級2・3にも対応しておりますので、長期優良住宅や住宅性能評価においても必ずしも許容応力度計算をやらなくても対応できるという事になります。ぜひお試しいただければと思います。
内容の詳細は本コラムでは省略させていただきますが、入力例などがあり丁寧な利用案内になっておりますので、公益財団法人日本住宅・木材技術センターのホームページ からダウンロードいただき、ご確認ください。
これらツールで必要壁量を算出して、耐力壁を配置する際ですが、今回、壁倍率においても、従来の「5倍以下まで」の上限が撤廃となっております。
大臣認定耐力壁に限定ではありますが、当面は7倍までに見直しとなっておりますので補足させていただきます。
このように壁量基準が変わったことで、木造住宅の基本的な耐震性能は向上したと言えます。もちろん設計プランによっても異なりますが、1.3~1.5倍程度に必要壁量が増える傾向にあるかと思います。皆さんも是非、比較検証してみていただければと思います。

壁量基準の話が長くなりましたが、もう1つの「準耐力壁も構造計算に算入できる」についても簡単に触れさせていただきます。
今回の法改正で、今までは余力として見ていた「腰壁」「垂れ壁」などが構造耐力上の計算に入れられることになりました。
この点に関しては、国土交通省の資料ライブラリーから「確認申請・審査マニュアル」がダウンロードできるようになっております。詳細に関して記載されておりますので、そちらからご確認いただければと思いますが、この改正点に関して注意点は2つかと思います。
1つは、「腰壁」「垂れ壁」まで計算上算入するという事は、余力を持たせないぎりぎりの設計にならないように注意した方が良い点です。確認申請後、窓などの計画変更が発生した場合の対応が苦慮することが予想できます。
また、もう1つは、これは新築に限った改正点だと理解しないことです。特にリフォーム業者の方々で見受けられるのは、今回の法改正において「リフォームでは何が変わったの?」という見方をされる傾向にあるのが気になります。
今後は、省エネ法改正も含めて新築住宅がどういう法改正のもとに建築されるかを十分理解した上でリフォームにも挑まないと、法令順守に反した施工になりかねないのでご注意ください。この「準耐力壁の壁量算入」の件も理解しておけば、後の「垂れ壁・腰壁を抜いて窓枠を広げたい」というリフォームの要望時に「構造耐力的に問題ないか」の理解に至ると思います。現場の施工担当者も含めて、従来と認識が変わったことを抑えておくことは極めて重要でしょう。

▽コラム「建築物省エネ法改正 確認申請フローを確認しよう」はこちら
https://zaijubiz.jp/column/2025-05-07/
▽建サポ「構造計算(許容応力度計算/壁量計算)」の詳細はこちら
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▽建サポ「地盤調査/地盤補強工事」の詳細はこちら
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3.まとめ

本コラムで建築確認申請時の注意点までお話しさせていただきたかったですが、さすがに今回の建築基準法改正は情報量が多いですね。
お話ししきれなかったので、次回以降、建築確認申請の変更点、またリフォーム分野での改正点を何回かに分けてお話ししていければと思いますので、引き続き、ご購読いただければ幸いです。
次回、確認申請時の変更点・注意点をお話しさせていただきますが、建築基準法改正についてだけではなく、同時に法改正が施行された建築物省エネ法改正においても確認申請では充分な理解が必要です。
いずれにおいても申請図書が増えたことに合わせて、多くの審査対象も増えたという事が大変悩ましい点になります。
建築物省エネ法改正の確認申請フローに関しては、前回コラムで記載させていただいておりますので、そちらも合わせてご覧いただければと思います。
また、建築業務でお困りのことがありましたら、在住ビジネスの建サポまでお気軽にご相談ください。

▽コラム「建築物省エネ法改正 確認申請フローを確認しよう」はこちら
https://zaijubiz.jp/column/2025-05-07/
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